退職金(退職所得)といえばその金額だけに目が行きがちなのが現実でしょう。
しかしこの退職金に対する住民税・所得税は、ある申告書を提出するかどうかで大きく変わるのをご存知ですか?
今回は退職金と住民税・所得税との関係を詳しく解説していきます!
申告書一つで大違い!
退職所得に関する所得税・住民税の仕組みとは?
退職金については、原則所得税及び住民税は支払い時に天引きされて支給されることになります。
ここで「退職所得の受給に関する申告書」を提出している場合としていない場合によって大きく算出根拠が変わってきます。
<退職所得の受給に関する申告書を提出した場合>
まずは、退職所得の受給に関する申告書を提出した場合についての退職所得に関する税金について説明していきます。
この申告書の提出により、退職所得控除額の適用が受けられるのです。
退職金のうち、ある一定の金額を必要経費として算定できる仕組みになっています。
退職所得控除額の算出根拠については次の通りとなります。
簡単な例を挙げて説明します。
例)退職金金額2,900万円 勤続年数30年の場合
退職所得控除額、下表を用いて計算しますと、800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円となります。
退職所得控除額の計算の表
勤続年数(=A) 退職所得控除額 20年以下 40万円×A 20年超 800万円+70万円×(A-20年)
そして、退職所得控除が算出されると退職所得金額=(退職金総額-退職所得控除額)×1/2という公式を用いて計算することになります。
よって、2,900万円-1,500万円×1/2=700万円となります。
退職所得金額が700万円なので、所得税率は23%となります。
一方、住民税については一律10%となります。
よって、所得税は下表を用いて計算すると
所得税=(700万円×23%-636,000円)×102.1%=994,454円
住民税=700万円×10%=700,000円
退職金手取り額は、27,305,546円となります。
退職所得の源泉徴収税額の速算表
退職所得の源泉徴収税額の速算表 課税退職所得金額(A) 所得税率(B) 控除額(C) 税額=((A)×(B)-(C))×102.1% 195万円以下 5% 0円 ((A)×5%)×102.1% 195万円を超え 330万円以下 10% 97,500円 ((A)×10%-97,500円)×102.1% 330万円を超え 695万円以下 20% 427,500円 ((A)×20%-427,500円)×102.1% 695万円を超え 900万円以下 23% 636,000円 ((A)×23%-636,000円)×102.1% 900万円を超え 1,800万円以下 33% 1,536,000円 ((A)×33%-1,536,000円)×102.1% 1,800万円を超え 4,000万円以下 40% 2,796,000円 ((A)×40%-2,796,000円)×102.1% 4,000万円超 45% 4,796,000円 ((A)×45%-4,796,000円)×102.1%
<退職所得の受給に関する申告書を提出していない場合>
退職所得控除が適用されず且つ退職所得の1/2も適用されません。
従って、所得税は退職金額の20.42%の税率が課税されてしまうのです。
2,900万円×20.42%=5,921,800円
住民税は一律10%なので、2,900万円×10%=290万円
退職金手取り額は、20,178,200円となります。
申告書提出の有無だけで、手取り額の差はなんと7,127,346円にもなります。
事業主(退職金支払者)が処理しなければ自分で申告を!
実際は退職金額よりも退職所得控除の額が大きい方が圧倒的に多いです。
今の時代、終身雇用制が完全に崩れていく中で、年齢を問わずに能力があるか人手不足の業界には簡単に転職できることが、このような現象を生み出しているのは間違いないことでしょう。
しかし、冒頭でも説明した通り退職所得の受給に関する申告書を提出すれば優遇が受けられます。
書類上はあくまで「申請書」なので本人からの申し出が必要ですが、実際は事業主(退職金支払者)から申告書を渡して書いてもらうという形が一般的です。
繰り返し述べてきましたが、退職所得では、申告書が提出されているかどうかで課税額が大きく異なります。
例え事業主がこの処理を怠っていても、忘れずに必ず申告しましょう!